仕事のやりがい:PE投資

数々の企業に投資して、その企業の立て直しをしてきた
PE投資ファンドで投資担当を行う人に、
仕事への思いをお聞きする機会があったのですが、
そのお話が勉強になったので簡単にご紹介します。

その方は(仮にAさんとします)、PE投資の仕事に就いて10年強で、
ディレクターとして投資案件の発掘から投資実行、投資先企業のバリューアップ、
EXTまで一連のプロセスをリードしておられる企業投資の熟練者です。

Aさんがある地方の食品加工会社の事業承継案件を手掛けたそうです。
その会社は農産物を加工して小売店へ卸す事業を行っており、
オーナー社長さんが1代で起こして大きくした会社です。
地方の畑の中に社屋があって、社長が1つ1つ社員に作業を指示して
その分野では国内有数の会社へ育て上げました。
そして、社長がふと我に返れば自分は世間では引退の年齢をはるかに
過ぎており、会社内には後継者も育っていないという現実に直面
されたのです。後継者がいないどころか、仕事のプロセスなどノウハウは
全て社長の頭の中だけにあり、社員は社長の指示に従って作業をするだけで
あった為、社長が引退したら事業がストップしてしまう、
そんな状態でした。

こういう会社、結構多いのです。
せっかく創り上げた会社を後世に残したい、
そう思っていた社長のところにAさんが訪れ、事業承継の為に
Aさんの投資ファンドが株式を社長から買取り、
そして、会社を社長の指示だけで動く状態から、組織で事業を
回していけるように大改革をすることを提案しました。

社長の信頼を得てAさんの提案が受け入れられて、
投資を実行して改革に取り組むも、簡単なことでは
ないのですね。会議では社長だけが話して、他の役員は一切口を
開かず黙っている状態。建設的な発言など全くなく、完全な
指示待ち文化であったそうです。
そのようなところからスタートでした。

地道に1つ1つ改革を(社員の皆さんにその意味を説きながら)
進めていきました。
どの商品がいまどれだけ出荷されているのか、
今月はどれだけ売れたのか、それは昨年同月比では
多いのか少ないのか・・・・
これまで社長の(鋭い)勘でやってきたことも
具体的な数値で見える化し、

そういった経営数値を見て、それをどう解釈して、
事業にどう活用していくのか、といったことを社員の
人々の学んで頂く為の勉強合宿を行なってノウハウを
伝授し、励まして、

出来る限りのことをやりました。
その間ずっと考えていたことは、社員の人々
1人1人の心に火をつけることです。

そして、ついに、その成果を実感した出来事が起こりました。

社長との経営会議でのことです。
例のごとく社長が「今月は〇〇商品を先月と同じだけ作るぞ」
というように発言した時に、
メンバーの一人が口を開きました。

「社長、指標のAとBを見ると〇〇は来月以降の販売が
2割ほど落ち込みそうです。他方、Cを見ると△△は
ここ半年品不足です。こちらを増産しませんか?」

と自信を持って、且つ、具体的に発言をされたのです。
その姿を見たAさんは、
「この10年で初めてここまで感動した」
非常に生き生きとした満面の笑みで、
そう仰っていました。

それまでも感動したこと、楽しいと思ったことは沢山あったそうですが、
それらとは次元が異なる感動であったそうです。
心が震えた、そんな表現をされていました。
お話になる表情から、その気持ちが溢れ出ていました。

その話を聞いて、私は思いました。
この仕事(PE投資)は、大変な仕事ではあるけれど、
10年間がんばり続けて、Aさんの立つステージにまで到達すると、
心が震えるくらいの感動を味わえる仕事なのだと。

Aさんの役割を担える立場に就くには、大変なのです。
そもそもPE投資ファンドに入社する為には、相当タフな
仕事経験を積み複数の専門性を修得しなくてはいけませんし、
入ってからも大変なことが続きます。
その過程であきらめていく人達も多いのも事実です。

でも、あきらめずに、がんばりつづけて成長していけば、
普通の仕事の何十倍もの、次元が異なるくらいの感動がある
ということを学ばせて頂いたお話でした。
このような感動こそが、他には代えがたい仕事の報酬なのだと
実感した次第です。

(2017年3月28日 山本恵亮)