私はこれまで人の心理・社会的発達段階に言及して、
青年期(20代位)はアイデンティティの確立を、
中年(40前後)は心理的危機を経験するとともに、
その後、人との親密性や世話することを求めていくと、
折に触れて述べてきました。
しかし、その先の老年期(60前後から)は、
どうなるのか?
自分が経験していないことで手触り感が無い為、
老年期については書いたことはありません。
ただし、個人のキャリア・人生の形成、
そして、対人支援者にとって大切なことですので、
少し述べたいと思います。
<60歳前後からの心理的葛藤>
E.H.エリクソンの言葉を拝借しながら書きます。
この時期の心理的な葛藤は、
「良い人生だったな」(統合)と思えるのか、
あるいは、
死がリアルに見えてくる為に「絶望」か、
この対立する2つの間で揺れ動きます。
そして、この葛藤から「英知」が生じます。
一方で、これに対立するものとして「侮蔑」の感情に
絡めとられがちです。
この「侮蔑」の感情を、
若い世代の人は老害だと批判的に見ることが多い
かも知れませんね。
でも、老害だと一刀両断にしてはいけないと思います。
これは、歳を重ねて御用済みになったと感じることや、
また、孤立してくる状況で抱く感情への反応です。
つらい気持ちが表出しているのです。
<老年と若年の分断で失っているもの>
そして、社会の分断、家族の分断によって、
本来は人間社会においてあるべき
人生の終わり(老年期)と、
人生の始まり(乳幼児期)の意義深い交流が
遮断されている深刻な社会問題です。
老年と下の世代との別居から
家族生活の連続性が遮断されている為に、
老年期の人にとっては、
祖父母的な最低限の生きがいが失われています。
子供の世代にとっては、
本来は老年期の年長者との出会いによって
それぞれの仕方で思慮深さを学ぶのですが、
その機会を失っています。
ライフサイクルの輪が閉じていません。
これでは社会の活力が失われ続けて、
社会自体が弱体化してしまいます。
今を生きる我々が解決しないといけない問題でしょう。
<老年期の個人はどうすれば>
老年期で個人が必要とされるものは、
人生で経験してきた色々なことを1つの全体として
受け止めることです。
これまでの人生の各段階で経験してきたことを
自然と統合していけるならば幸せです。
その為に肝となることは、英知であり、
知性を愛することではないでしょうか。
***
エリクソンは、老年期のあり方に内在する
最後の行動パターンは知恵を愛するものと考えました。
なぜなら、心と体が衰えながらも
意味を見出そうとする過程で、
英知の中に潜む希望を擁護できるから、と言います。
***
知性を愛することによって、
威圧的な独りよがりの老害のワナを避けられるし、
生まれたばかりの世代に思慮深さを残せると思います。
統合感はこれまでの点と点を1つに結び付けます。
それは個人的な経験だけでなく、
人生の重要なストーリーの中で出会い、
相互の関係を持ってきた幾人かの人々に対する
時を超えた友愛も生じて来るのでしょう。
人生最後のステージの人間は、
最初の人生段階の人間に対して、
価値ある意味を持っていると思います。
そして、そこから生まれるものは希望でしょう。
(2020年10月12日)
山本恵亮
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